横浜地方裁判所 昭和28年(行)18号 判決
原告 千羽秋太郎
被告 戸塚税務署長
一、主 文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告は、被告が原告の昭和二六年度の所得につき、昭和二七年五月更正決定通知書をもつて所得額を六八二、〇〇〇円と更正し、その後昭和二七年九月二日附更正決定訂正通知書をもつてこれを五四二、〇〇〇円と減額訂正した更正決定を取消す、訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求め、請求の原因として、
原告は横浜市保土ケ谷区帷子町一丁目一二番地で宝乗湯という名で大衆浴場を経営していたが、昭和二六年度の所得につき昭和二七年二月二八日所轄税務署である被告に対し所得額を四七二、〇〇〇円として確定申告をしたが、同年五月二二、三日頃被告からこれを六八二、〇〇〇円と更正する旨の更正決定通知書を受領した。そこで同月二八日再調査の請求をしたところ、同年九月二日附更正決定訂正通知書により、これを五四二、〇〇〇円に減額訂正する旨の通知をしてきたので更に、これに対し、同年一〇月三〇日東京国税局長にあて審査請求をしたが、昭和二八年六月一〇日附書面で請求を却下された。
しかし、被告のなした右の各決定は机上の計算より生じた出駄羅目と一方的感情的な憎悪よりなされたもので違法である。原告は昭和二二年以来納税組合を組織し、毎年の所得確定申告に際しては組合を代表し税務当局との交渉にあたつてきたが、当局の要望されるような組織的な帳簿の記載はできず、一方組合員全員納得の上で委任をうけ交渉をする関係上、当局係員の感情的な憎悪をうけ、ついに前記のような一方的な課税処分をうけるにいたつたのである。すなわち、原告は今尾大蔵事務官の実態調査をうけたが、同年度の確定申告に際し他の組合員には昭和二七年二月二〇日頃迄に同事務官から示達があつたので同月二四、五日頃原告において右組合員と共に序列均衡の点で交渉したところ、本件は団体交渉を認めないとしてこれを拒否した上原告に対し保土ケ谷区内同業者最高の所得額である六八二、〇〇〇円で確定申告をせよと申渡された。原告の浴場は同区内の同業者の中位以下であつて、これに承服することができないので、同月二八日前記のとおり四七二、〇〇〇円の確定申告をした。同年五月一五日戸塚税務署に行つた際岩崎事務官より今尾事務官査定の六八二、〇〇〇円は絶対で、その額で申告をしないと更正決定をするといわれたが、同月二二、三日頃果してその旨の通知書を受領した。よつてこれに対し再調査の請求をした。同年七月一一日係長及び阿部事務官が来て原告の大福帳その他水道料電気料の領収書等を調査したが、同月二九日四七二、〇〇〇円の申告額に五〇、〇〇〇円を増額し訂正して申告されたいとのことであつたが、示談は成立しなかつた。阿部事務官は原告の提出した確定申告に計上した経費のうちに、原告が昭和二六年二月浴場に備付けた元釜の代金一〇、〇〇〇円があることを指摘し、これは数年間の使用に耐えるものであるから一年間の減価償却費を計上するのが正当で、その差額は所得額にくみいれるべきものと主張した。原告は右の記載が誤りで元釜は三年の耐用年数があり、残存価格一万円を考慮すれば七万円の差額ができることは争わないが、原告提出の確定申告には他に約一五〇、〇〇〇円の経費の計上及び約五〇、〇〇〇円の収入の計上もれがあり、差引すれば四七二、〇〇〇円の所得額も過大であるわけになるから、同事務官の主張はうけいれなかつた。その後前記のとおり被告から同年九月二日附の更正決定訂正通知書の送付をうけたけれども、以上の次第で右訂正の決定も不当であるから、被告のなした処分の取消を求めるため、本訴に及んだ。
と述べ、被告の答弁事実に対し原告の水道使用量が被告主張のとおりであることは認めるが、同一立方米当りの所得金額は三〇円以下が正当である。
と述べた。
被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として、
原告が昭和二七年二月二八日被告に対し昭和二六年度分所得金額を四七二、〇〇〇円と確定申告をし、被告が同年五月一五日附で右所得金額を六一八、〇〇〇円と更正したこと、原告が同月二八日これに対し再調査の請求をしたこと、被告が再調査の結果同年九月二日その所得金額を五四一、〇〇〇円と認め、さきの更正金額のうち、七七、〇〇〇円を取消すとの決定をしたこと原告より同年一〇月二日東京国税局長に審査の請求をしたが昭和二八年六月一〇日棄却の決定がなされたことはあるが、原告主張の事実中これに反する部分は否認する。
原告は、昭和二六年度中その主張の場所で宝乗湯と称する浴場を経営していたが、原告が所得額算定の基礎としている帳簿には記載もれがあり依頼することができず、他にこれを明かにする資料がないので次のような方法で所得額を推計した。すなわち原告の同年度における水道使用量は一一、四八二立方米であるが、保土ケ谷区内の同業者一二名全部につき同年度中の水道使用量と所得金額の比率をみると、水道使用量一立方米当りの平均所得金額は五一円七七、八銭の割合となるから、これを原告の右水道使用量に乗ずれば原告は五九四、五一四円の所得があつたことになる。また、原告が自認するとおり、原告のなした確定申告の収支計算には釜代一〇〇、〇〇〇円を経費に計上しているが、これは資本的支出であるからその耐用年数四年に割当てた一年間の減価償却費二二、五〇〇円のみを経費として収支計算を訂正すべきであり、これに従えば原告の申告の申告自体によるも所得は合計五四九、〇〇〇円となる。それ故被告が原告の所得金額を以上の推計額より少額の五四一、〇〇〇円と更正したことに違法はない。
と述べた(立法省略)。
三、理 由
原告が昭和二十六年度中その主張の場所で宝乗湯と称する浴場を経営していたところ、同年度分の所得金額を昭和二七年二月二十八日被告に対し金四七二、〇〇〇円と確定申告をし、被告が同年五月一五日附で右所得金額を六一八、〇〇〇円と更正する旨の通知をしたこと、原告が同月二八日これに対し再調査の請求をし、被告において再調査の結果、同年九月二日、その所得金額を五四一、〇〇〇円と認め、さきの更正金額のうち七七、〇〇〇円を取消すとの決定をしたこと、原告より同年一〇月二日東京国税局長に更に、審査の請求をしたが、昭和二八年六月一〇日これを棄却する旨の決定がなされたことは被告の認めるところである。原告は、さきの更正決定は所得金額を六八二、〇〇〇円としたもので、その後の訂正は五四二、〇〇〇円と減額したものであると主張するが、これを明かにする資料がないから、被告の認める限度で更正、訂正がなされたものと認定する外はない。
証人皆川孝平の証言及び本件弁論の全趣旨によれば、被告は原告のなした確定申告が自己のなした調査と異るので前記の更正をしたが、再調査の請求により、更に調査の結果、原告の所得金額を四七一、〇〇〇円と認めてさきの更正決定を減額訂正したもので、その認定した所得金額は被告の答弁するような方法で優にこれを推計することができる事実を肯定せられる。原告は、被告のなした右処分は机上の計算より生じた出駄羅目であると争うが、右認定により明かなとおり完全な帳簿や、その他信頼するに足る資料の存在しない本件のような場合、被告主張のような方法で原告の所得金額を推計算出し、確定申告額の更正をすることは税法の認めるところ、これを机上の計算だからといつて排斥することができないことはいう迄もない。もとより、それは推計であるから、絶対的に誤りがないとはいえないが、推計の方法が妥当であると認められること前記のとおりである以上信頼性に欠ける原告の確定申告額より真実に近いものと認めなければならないのは当然である。
原告は、被告のなした右の処分は、原告を憎悪し一方的感情的にこれをなしたものであるとして種々非難するが、そのような事実を認められる資料は全然提出されていないし、先に被告のなした更正は、その後の再調査により減額訂正されており、この後者の処分に違法がないこと前記のとおりであるから、原告の右主張は採用の価値がない。
その他原告の主張するところが理由のないこと叙上に照し明かで、被告のなした処分に違法があるとは認められないからこれが取消を求める原告の本訴請求を失当とし、訴訟費用につき民訴法八九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 森文治)